OWNER'S SELECT
お客さまから、「人生最後の時計に相応しい感じがするね。」と言われた時にハッと気付かされるものがありました。
今までそういう見方で時計を見たことがなかったからです。
5年後の自分、10年後の自分、あるいは一生モノとしての時計選びは、自分としてもお客さまへのアドバイスとしてもしてきたつもりではあったのですが・・・
果たして、自分だったらどんな時計を選ぶんだろうか。
そういうタイミングや心境に本当にならなければ、最終的な判断はできないかもしれないけど、もし今うちの店の中で1本決めなければならないとすれば、私もお客さまと同じ答えを導き出すかもしれない。
お隣の岩手県雫石町にある盛岡セイコー内「雫石高級時計工房」にて、お客さまからのオーダーが入ってから作り始められる時計、それが「SHIZUKU-ISHI」。
普段は量産される国産腕時計の最高峰と言ってよいであろう「グランドセイコー」や「クレドール」の機械式時計のムーブメントを組み立てている、雫石高級時計工房の熟練の組立の匠たち。
彼らの工房の名を冠した時計が存在することは、意外にもあまり知られていない。
それもそのはず、今年2020年から腕時計全般の広告宣伝、販売を担うセイコーウォッチに組み入れられたものの、昨年までは製造を主とするセイコーインスツルが手掛ける時計だったから。
インスツルは製造の会社で、広告宣伝、つまりマーケティングやブランディングは専門外。日本全国でもわずか数店舗のみの取扱い。宣伝でその名を知ることも、ましてや実物を見ることはほぼ皆無。「知る人ぞ知る」という言葉はまさにこのシズクイシのためにあるような言葉だと思う。
シズクイシというブランドに興味を持っていただいた方に少し説明すると、このブランドには4つのモデルが存在し、それぞれ複数の文字盤が選択でき、モデルによってクロコダイルのベルトとメタルのバンドも選択が可能。
40万台後半から60万円台までの価格帯で、全て機械式時計となっている。
「ND75 カレンダー」という自動巻き 丸形三針デイト付き、「NC77 クロノグラフ」は自動巻き パワーリザーブ表示付きクロノグラフ、「NC56 マルチファンクション」は唯一のトノー型。自動巻き デイト表示に加えレトログラード式曜日表示付き、そして「NB98 ウルトラスリム」 手巻き三針スモールセコンドという4つラインナップ。
もっともシンプルなこのNB98がもっとも高額になる。
それはなぜか。
それは、この時計のムーブメントが厚さわずか1.98mmしかないから。
世界的に見ればこれより薄いムーブメントはあるかもしれないが、この超薄型ムーブメントを組み上げることの難しさは国産最高峰の時計を作り上げる職人たちでも容易ではないと思われる。
実際聞いた話では、雫石高級時計工房でもNo.1、2の職人しかこのムーブメントを組み上げることはできず、その彼らでも日に2つ組み上げられるかどうかだそうだ。
うーむ。
文字盤の雰囲気は、なんの変哲もないアラビア数字の3針時計なのに。
ただ、シースルーバックから除くムーブメントを一度見れば、たいがいのお客さまは感嘆の声を上げるからこの時計の凄さは時計に詳しい方でなくともきっと伝わるのだろう。
世に、いかにも。という時計はゴマンと存在するけれど、本当に良い時計、とりわけ「人生最後に買いたい時計」となるとそう多くは存在しないのかもしれない。
改めてこの時計を見て、名うての時計職人が自分のオーダーのためだけに作ってくれるならば、約3ヶ月の待ち時間も楽しみにしかならないかもしれない。
この時計を違和感なく着けこなせる「大人」に、いつなれるのだろうか。
スペック
SHIZUKU-ISHI NB98 ウルトラスリム
手巻式
日常生活防水 3気圧
デュアルカーブサファイアガラス(無反射コーティング付き)
シースルーバック
ケースサイズ:35.0mm
クロコダイル、カイマンストラップ
価格 660,000 yen(税込)